「まぁ、ペックは料理できないもの、ボクに感謝してよね!」
「なっ…料理以外の家事ならグリコよりオレの方ができる!」
「何よ!やろうってんの!?」
「やるって何をだよ!」
「家事全般、どっちができるか対決!!」
「…マジカ。」
事の始まりは、オレとグリジアのいつもの些細な喧嘩だった。
「家事が一番できるのは誰だ選手権」
長い調理台の端っこで、髪の色に合わせた紫色のエプロンを身にまとって
どうしてこうなったのだろう、とオレは頬杖をついていた。
確か今朝のグリジアとの言い合いの勢いでどっちが家事できるか対決ってことになって…
(でも…)
「楽しそうだね。」
「やるからには勝つわよ〜♪」
「私、頑張るっ!!」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?ニモカ。」
「ヘイ、ハニー達、元気かーい?」
「…ファゼオうるさい。レッドカード、退場。」
「えぇー!!?」
…何故スラさん達も巻き込む必要があるんだ?ファゼ夫とコフィンはいいとして。
その疑問にはグリジアがニッコリ笑って答えてくれた。
「だって、皆でやったほうが楽しいでしょ?」
「…さいですか。」
どうやら勝負は料理、掃除、洗濯の三種目の合計点で決まるらしい。
実況、審判はコフィンと先程レッドカードを喰らったファゼオ。
『家事が一番できるのは誰だ選手権、スタートだぜ!うっしゃー!ばっちこーい!』
『…あんたはやらないでしょう。騒がないでちょうだい。』
不安ばかりが募る中、ファゼオの楽しそうな声とコフィンの冷たいツッコミと共に
何の意味も成さない恐怖の勝負が始まった。
▼第一回戦:料理バトル
『くれぐれも食えるモン作れよ〜?某愛があればラヴイズOKな番組にはなるなよー?』
『どこのネタよ、それ。』
ドゴス!!
スピーカーの向こうから鈍い音がしたのは気のせいだろうか?いや、きっと気のせいだ。
料理のお題は「ハンバーグ」、なんとも一般的な物である。
本当は某愛があればラヴイズOKな番組のように高級食材を使いたかったらしいのだが
残念ながら予算が足りなかったようだ。
うん、流石にそこまでパクったらマズイものな。あ、いや、こっちの話だ。
「うーん、豚肉と牛肉の区別がつかないんだけど…。っていうかハンバーグってどっちの肉使うっけ?」
肉を両手に持って唸るのは宗君こと宗秦。
あぁ、その両手の肉はどっちも豚肉だよ…ハンバーグに使う肉は残念ながらオレもわからないなぁ。
「お、グリちゃん上手だねー。」
「えっへっへ、スラ兄さんほどじゃないよ〜。」
こちらはほのぼのと料理を作るスラさんことスラカさんとグリコことグリジア。
春夜さんは楽しそうに肉に拳を叩き込んでいる。何というか…カッコイイ(?)
『結果発表。点数は1〜5までね。』
淡々とコフィンが点数を読み上げる。時々ファゼオの奇声と何かを殴る鈍い音がするが気にしてはいけない。
ちなみに結果はこうだ。
ペック:2点
グリジア:4点
スラカ:5点
ニモカ:4点
春夜:4点
宗秦:2点
スラさんがダントツ1位だった。春夜さんとグリコ、ニモカさんもなかなかだ。
女の子だからだろうか、やっぱり。
オレは点数が同じ宗君と意気投合していた。
ちなみに宗君の点数が低いのは途中で指を切ってしまったからではないか
という質問は受け付けていない。
▼第二回戦:掃除バトル
『第二回戦目は掃除バトルだぜ!とりあえず本棚整理とちゃぶ台の片付けな〜。』
『早さだけじゃなくて綺麗さも見るから。』
ノリノリなファゼオに冷静な声で補足をするコフィン。
案外ファゼオとコフィンっていいコンビだよな、何て言ったらコフィンにぶっ飛ばされるのでやめておこう。
さて、それはいいとして…
「掃除なんてやってられるかチェケラッチャー!!!」
ガッチャーン!!
…何か片付けなくてはいけないのに散らかしている人がいるのですが。
グリコご乱心。どうも掃除は嫌いらしい。片付けられない女は嫌われるぞ?
「チェケラッチャー?」
そんなグリコを見て楽しそうだったので真似をするお師匠ことニモカさん。
「お師匠に何教えてんだグリコー!!」
そしてすかさず乱入するオレ。もうお祭り騒ぎだ(一部のみ)
そしてお祭り騒ぎの結果がこうである。
ペック:5点
グリジア:1点
スラカ:4点
ニモカ:2点
春夜:3点
宗秦:4点
ノリに乗ってちゃぶ台をひっくり返し、本棚の本をオレにぶん投げてきたグリコはご覧の通り
悲惨な結果に終わった。
何も知らないうちに巻き込まれ、最初よりも散らかしてしまったお師匠もあまり良くない結果だった。
…申し訳ありません、うちのグリコが…。
オレの点数については…バトル終盤に何故か
「片付けは片付け専門に任せればいいのよ!…ってことで、後は頼んだペッーク!逃げるよ、ニモちゃん!」
と自分の分の片づけをオレに押し付け、またもやお師匠を巻き添えにして逃走した2人の分の片づけまでした
オレの努力というか、情けなさというか、何で片付けちゃっただろう、グリコにやらせれば良かったのにというか…
まぁとにかく、オレの努力が認められたと言うことにしておこう。…じゃないと悲しすぎる。
一部で開催されたお祭り騒ぎに入らなかった人たちは、比較的安定した点数だった。
またしても高得点をたたき出したスラさん。次回の点数にも期待です。
▼第三回戦:洗濯バトル
『この大会もいよいよ大詰め!ラストバトルは洗濯バトルだぜ!ハニーは頑張れ!ペックは頑張るな!』
「待てそこのレッドカードのナンパ野郎!こっち降りて来い!」
『乱闘禁止よ。したいなら終わってからやりなさい。私は止めないから。』
第三回戦開始早々、ファゼオの挑発に乗り乱闘を起こしかけたペックの後ろ姿を
宗秦とスラカはぼんやりと見つめていた。
「”ハニーは頑張れ、ペックは頑張るな”…俺たちはどっちなんだろうね、スラカ?」
「…う〜ん、適度に頑張ればいいんじゃないか?」
「…何で俺たちはこの大会(?)に出場してるんだっけか?」
「う〜ん…宗秦、それは聞いちゃいけないことだよ、多分。」
この戦い本来の意味が忘れられつつありますが
何はともあれ、第三回戦、始まります。
「洗い物はもうないの!?あ、宗秦、そこの服よこしなさい!」
「え、ちょ、これ俺が洗う分…」
「つべこべ言わなーい!」
開始15分で全ての洗濯物を洗い終わってしまった春夜さんに自分の分の洗濯物をぶん取られる宗君。
自分の分は自分で洗わなければいけないのだが、取られた本人、宗君は
「ま、いいか。ラクチンだし…」
なんてのん気なことを言っている。きっとこの二人はこれが日常なんだろうなぁ…。
一方、トラブルメイカーのグリコは…
「いい?ニモカちゃん。洗濯は綺麗さも大事だけど、香りも大事。」
「ほむほむ…じゃあこの”綺麗すっきり、薔薇の香り”って書いてある洗剤を使えばいいのかなっ?」
今回は比較的いい線いってるじゃないか
と、思いきや
「…ノンノン、甘いわニモカちゃん。ここはダイレクトに…薔薇そのものを突っ込む!」
ズボフ!!
洗濯機に洗い物と大量の薔薇の花を突っ込むグリコ。うわぁ、今回もやらかすぞコレは!
ズゴゴゴゴガガガガ
早速奇妙な音を上げる洗濯機。
「…!ニモカ、危ない!」
「スラ君…?」
爆発寸前の洗濯機の前に立っているお師匠を軽い身のこなしでスラさんが退避させる。これはカッコイイ。
そして、その直後…
チュドォォォォン
この大会のフィナーレを飾るにふさわしい爆音が鳴り響いた。
いやぁ、良い花火だ。たーまやー。
結果発表
ペック:4点
グリジア:1点
スラカ:4点
ニモカ:3点
春夜:5点
宗秦:3点
▼総合結果発表
ペック
2/5/4 合計:11点
グリジア
4/1/1 合計:6点
スラカ
5/4/4 合計:13点
ニモカ
4/2/3 合計:9点
春夜
4/3/5 合計:12点
宗秦
2/4/3 合計:9点
『…というわけで、優勝はスラカよ。おめでとう。』
『順位的に言うと、スラカ>春夜様>ペック>宗秦=ニモちゃん>グリちゃん、ってところか。』
結果的に、各種目で好成績を取っていたスラカが優勝。トラブルメイカーのグリジアは最下位。
比較的のんびりやっていた春夜、ペック、宗秦が真ん中で
色々と巻き込まれてしまったニモカは大分下の方だ。
…というかスラさん、君は良い主夫になれると思うぞ。うん。
▼この大会でわかったこと
・グリジアよりペックの方が家事はできる(※この大会の本題)
・グリジアは人を巻き込むのが得意。
・ファゼオは女の子には様・ちゃん付け、男の子は呼び捨て。
・コフィンはファゼオを1時間の間で17回ボコった。
・春夜は宗秦の分も洗濯する優しい子。
・洗濯機に薔薇を入れてはいけない。
・スラカは良い主夫になれる。
・グリジアは良い花火になれる。
結局この大会が終わった頃にはペックもグリジアも最初にケンカしていた内容なんてすっかり忘れていた。
でもそれが、彼らの日常で、これからも、彼らはそれを繰り返していくのだろう。
それが一番幸せなことだと彼らが気づくのは、まだまだ先の話である…。