ねぇ、どうしてそんなにあなたは強いの?
なんて、冗談交じりで笑って聞いてみたら

私は強いんじゃない。逃げてるだけ。

あなたはそういって、微かに微笑んだ。



「色とりどりの世界」 〜青と黄色のレクイエム〜
「寂しい狼との約束」




「ね、ね、姉貴っ!どこ行くのっ?」
いつも通り、外に出ようとするとグリジアは興味津々と言う感じで私を見つめてきた。
「どこ…外に狩に。」
地名が思いつかなかったので大まかに言ってみる。
するとグリジアはニッコリと笑った。
「ボクも連れてっ…」
「だめ。」
言うことが予想できたのでグリジアが言い終わる前にピシャリと言ってやる。
行くところは毎日気分で決まるのだが、今日はどうも弱いところに行く気分ではない。
Lvが低いグリジアではついてくることはできないだろう。
「ファゼオに遊んでもらえばいいじゃない。」
そう言いながら私は家の中を見回す。
いつもより静かだと思っていたら、ファゼオがいなかった。
「ファゼ様はペックとLv上げ中。だからボクも姉貴とぉ〜…」
じっ、と強く私を見つめるグリジア。
「私、今日は強いところに行くから連れて行けないの。」
「ぬぅ…」
唸るグリジアに家の鍵を渡して私は苦笑した。
「留守番宜しく、グリジア。」
背中に熱い視線を感じたがそれを振り切るように私は家を出た。

「やっぱりダメかぁ…。」
戸が閉まるのと同時にボクは座り込み、ため息をついた。
姉貴はいつも一人で行動するから、断られるのは覚悟していた。
「でも、つまんないんだもん。」
ボクは鍵を投げて、キャッチする。何度も、何度も。
やがてそれにも飽きて、投げた鍵をキャッチせずに床に落とす。
静かな部屋に金属音が響いて、また静かになった。
「姉貴は…一人でつまらなくないのかな。寂しく、ないのかな。」
不意にボクは疑問に思った。
姉貴は…コフィン姉さんはいつも一人だった。
ボクが初めてあった時も一人で、今もボクたちに少し距離を置いているような感じだ。
「……。」
あまり気が進まないようだったが登録させてくれたフレンド登録。
カチカチと携帯の画面をスクロールさせると、そこには姉貴の居場所が表示されていた。
「ルデース南部…?どこだろ、それ。」
ボクは地図を広げて場所を確認すると、そのまま地図を握り締めて家を出た。

パシュン、と弓を放つ音。モンスターの声。
いつも聞いている音なのに、何故か今日は大きく聞こえる。
(グリジア、家においてきてよかったのかしら…)
何だか胸騒ぎがする。
彼女はちゃんと家にいるだろうか。
(Lv上げに付き合ってやった方がよかったかも…)
”コフィン!!”
相棒のドクトル「旦那」の声で我に返る。
(しまった、今は戦闘中…!)
スカルジャが群を成して私達の方へ突っ込んできていた。
旦那を含む私のメイトが私の前に並んで構えた。
この数だと…おそらく、死傷者が。
「旦那!逃げ…」

「姉貴っ!!危なーい!」

聞き覚えのある声。
木の影から走ってくる緑色の服に赤い宝石をつけた、木苺を思わせるような少女。
一気に血の気が引くのが自分でも分かった。
「あんたの方が危ない!!」
冗談じゃない。鋭い声を発してコフィンはグリジアを抱え上げ、メイトを連れて逃げ出した。
こんなに早く走れたっけと自分でも疑うほどの速度で。
ルデースの入り口を通過し、入り口にあった大木にぶつかりそうになりつつ
コフィンは足を砂で滑らせながらブレーキをかけた。

荒く響くコフィンの呼吸。
砂ぼこりがおさまるにつれて見える、グリジアの魂の抜けたような顔。
「う…。」
体に無数の傷ができたコフィンを見て、やっとグリジアは何が起ころうとしていたのかを把握した。
恐怖を感じて、泣いてしまうだろうかとコフィンは思ったが
意外にも、それは外れた。
「姉貴…ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいっ…」
泣きそうになりながらも涙はこぼさず
ただコフィンに謝りながらグリジアは相棒のオームル「コカトリス」でコフィンにヒールをかけ続けた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめ…」

「ごめんね。」

グリジアは顔を上げた。コフィンが何故かグリジアに謝ったからだ。
「つまらなかったんでしょう?一人で。」
コフィンはすまなそうにグリジアの頭をポンポンと叩いた。
それと同時にグリジアの瞳からはポロポロと涙がこぼれた。
「…でも、姉貴も一人だもん。ボクだけ、我慢できなかったんだもん。」
グリジアの言った言葉にコフィンは驚き、少し考えてから苦笑した。

「私は、……そうね。私も、寂しかった。」


帰り道、ボクはやっぱり姉貴に
「でも、人が言ったことは守らなくちゃダメね。」
と軽く怒られた。ボクが悪かったのだから、もう少しきつく怒ってもいいのに。
…姉貴は相変わらず無口なくせに優しい。
あれから、姉貴はボクを時々Lv上げに連れて行ってくれるようになった。
「あれ?お前らそんなに仲良かったっけ?」
と聞いてきたペックに姉貴はボウで脳天チョップをお見舞いしつつ、ボクを見た。

『これは、2人だけの秘密ね』

そういっている気がして、ボクは微笑みながら頷いた。
寂しい狼との約束。
今度こそ、ボクは守るよ。